あの日、あの夜、プールサイドで
――お母さんはボクを捨てたくて捨てたんじゃない。
バカだよな??
そんなコトあるはずないのにさ??
俺の本当の母親は愛もクソも何もない
わが子を赤ちゃんポストに捨てるような“ダメな母親”という事実は間違いないはずなのに……。
真彩が近くにいてくれて、笑ってくれたら、自分を愛してくれたら、それだけで可哀そうな自分は満たされる。
『そうじゃないんだよ。
コウちゃんはちゃんと愛されてるんだよ??』
真彩がそう言ってくれるたび
傷つき泣いてばかりの小さな吉良光太郎は、涙が出るほどホッとしたんだ。
嬉しくて嬉しくてそれしかなくて、愛し愛される自分を実感した時、初めて俺はこう思う。
――良かった。
ボクも生きてていいんだ。
俺が真彩に固執するのはスキとか愛してるとか、そんなモノよりもはるかに深刻なもの。
深刻だから俺はきっと自分の気持ちにフタをして、真彩を好きだと思い込んでた。
“好きだと言えば真彩はきっと自分から逃げたりしない”
そんな打算を含んだスキにきっと真彩は傷ついた。
気づきながらも真彩は優しいから、気づかないフリをして必死に俺を支えてくれていたのかもしれない。捨てずにいてくれたのかもしれない。
だけど……
真彩は月原に出会ってしまった。
俺の与える偽りの愛じゃなく……月原のくれる本物の愛を知ってきっと真彩は苦しくなった。
気づきたくなかった俺の本当の気持ちに否が応でも向き合わなきゃいけなくなって……苦しくなったに違いない。
――なんだ…俺、ダメじゃん。
こんな俺なんて捨てられて当然だよ。
裏切られて当然じゃないか。
生まれ落ちたときから母親から捨てられて
ゴミみたいに赤ちゃんポストに押し込められた、俺。
本当のお母さんのあったかさなんて何一つ知らなくて、本当のお母さんがどんなふうに愛してくれるのかなんて、もっと知らない、俺。
そんな俺なんて……
誰からも愛されないに決まってる。
ちゃんとお母さんに愛されたこともないヤツが他人を愛せるワケがない。
こんな俺を愛してくれる人なんて……きっとこの世にどこにもいない。