あの日、あの夜、プールサイドで
――え…??
“寧々ちゃんのお父様と同じこと”
そのセリフに体中の血が凍る。
俺が寧々を雑木林で見つけて抱き上げたとき
『にいちゃ…。寧々…おなかいたい…』
打ち身で真紫に光るお腹に手を当てながら、寧々は俺に苦痛を訴えた。
「あなたは寧々ちゃんのお父様を許せない、と言いました。あんな酷い事が出来るヤツなんて人間じゃない、と言いましたね!!?よく考えなさい、光太郎!!あなたがしていることは、あなたが忌み嫌う寧々ちゃんのお父様がした行為と全く同じ行為ではありませんか!!」
「…あ……!!」
静枝さんの言葉にカラダだけではなく、心が凍る。
寧々の死因は、内臓破裂。
実の父親から暴行を受けた末に内臓破裂を起こし、耐えがたい苦しみの中で亡くなった寧々。
そして今……俺の目の前には腹を抱えながら苦しむ、月原の姿が見える。
『にいちゃ、だいすき…。』
『寧々…コウにいちゃんのね??
およめさんになりたかったよ…??』
頭の中であの二度と思い出したくない光景が、鮮明に蘇る。
「あ……あ……。」
そして俺を混乱させる。
俺が月原にしている行為はきっと寧々の父親が寧々にしたことと同じこと。
無抵抗な人間を殴りたいだけ殴って、気が済むまで苦しませて、とことんまで痛めつけ、自分の気が済んだら“ハイ”それでおしまい。
俺はいつの間にかあんなにも憎んでいた悪魔と同じことを繰り返していた。
あんなにも忌み嫌う寧々の父親。その父親と同じ行為にふける俺を寧々はどんな顔をして見ているのだろう。