あの日、あの夜、プールサイドで
――寧々……ゴメン……。
静枝さんの言葉に我に返って真彩を見ると、真彩は指先をガタガタ震えさせながら、俺をキィっと睨みつけていた。
その瞳はいつも優しい、穏やかなあの瞳じゃない。
俺の全てを包んでくれて癒してくれる、あの優しいまなざしはどこにもいない。
それは大切な人を傷つける“敵”に向けて投げつける視線。
何のことはない。
寧々を失ったあの時。
泣きじゃくりながら病室に現れた寧々の母親を見ていた俺と、全く同じ視線で真彩は俺を見つめてた。
耐えがたい怒りと深い悲しみ。そして憤り……。
心の奥を真っ赤に染め上げる激しい感情を湛えた視線で真彩は俺を睨みつけていた。
――真彩……
俺の心の拠り所だった真彩
兄妹みたいにお互いの体温を感じながら育った、俺の大切な人
初恋の人
幸せな恋人同士だと思っていた、大切な人
家族で恋人で
寧々の死の哀しみと天涯孤独な身の上をを分かち合える、唯一の人
寧々と俺と真彩
三人で本当の家族になりたいと心の底から願った、ただ一人の人。
その夢はいつか現実になるハズのモノで
そう信じて疑いすらしなくて
そうなることで俺は初めて自分で自分を愛してやれる、そう思ってた。
愛し愛され
愛する喜び
俺が欲しくて欲しくてたまらない
本当の家族を真彩ならくれるハズ。
そう信じて、疑いすらしなかった。