あの日、あの夜、プールサイドで


指の間をすり抜ける透明な水

足の裏に感じる抵抗が何とも言えずキモチイイ。



50Mを泳ぎ切ると俺はクルンとターンを決めて、また再び泳ぎだす。



『ブハッ!!つ、月原!!俺、鼻に水入った!!』

『ハァ~??何やってんだよ、キラ!!
ターンの時にはしっかりアゴを下げろつっただろうが!!手伝ってやるからもう一回やってみろ。』



そう言えば、競泳を始めて間もない頃はターン1つ、飛び込み1つまともに出来なかった気がする。


――確かあの後、しつこく練習に付き合ってくれたんだよな??


口は悪いけど月原のヤツは面倒見がよくて。
俺がきちんと美しいターンを決められるようになるまで諦めずに根気強く教えてくれた。


フォームにしても何にしても
月原は基本にとにかくうるさくて、何度も何度も細かく教えてくれた記憶がある。


『基礎が一番大事だからな』

『え??』

『基礎がなってないヤツはダメだ。
時間がかかっても遠回りしたとしても、基礎はキッチリやらなきゃダメだ。』


だから……かな??
SGで初めて練習した時にもコーチは感心したようにこう言ったんだ。


『キミは相当いいコーチに基礎を固めてもらったんだね。直すところがほとんどないよ。』


……と。




実際特別選手コースに入った後、基礎からもう一回やり直しで泳ぎを1から構築し直す奴って…結構多い。それはとても大変で時間がかかる作業なのだ、と俺は仲間やコーチから何度も何度も聞かされた。


直す方も大変。
直される方はもっと大変。


正直さ??
あの時ほど月原に感謝した瞬間はない。


俺に初めて競泳を教えてくれた先生が月原でよかった。何度そう思ったか、わからない。


< 199 / 307 >

この作品をシェア

pagetop