あの日、あの夜、プールサイドで
「…うっ……ふぅ…っ!!」
俺は水の中で涙を拭う。
俺がこんなに泳げるようになったのは月原のおかげだ。
経験も何もない、ただの普通の中学生だった俺がこんなに短期間で日本中の強者達と堂々と戦えるようになったのは……月原が短期間の内にキッチリと意味のある基礎を叩きこんでくれたからだ。
『聞いてくれよ月原!!
今度、今度さ!!
俺インハイで藤堂と泳ぐんだぜ!?』
『おぉ!!聞いた聞いた!!
すげぇな~!!さすが俺の見つけたダイヤモンド!!』
藤堂と初めて対戦することになった時、一番に報告したのは月原だった。
あの時も、今も
月原は決して『頑張れ』と言わない。
その代わりにこう言ってくれるんだ。
『勝っても負けても、どっちでもいいさ。キラらしく、楽しく泳いでくれば、それでいい。ベストを尽くしてくるんだぞ??』
大きな舞台であるにも関わらず、頑張れとは決して言わない月原が好きだった。
今よりも、もっと。
さらに高みを目指して泳ぐ練習は楽しくて、こんな楽しみを与えてくれた月原に何度も何度も感謝した。
月原は俺にとって恩師以上の存在であり、俺に生きている意味を教えてくれた、信頼できる大人だった。
そう……
誰よりも信頼できる大人なハズだった。