あの日、あの夜、プールサイドで
ハッキリ言おう。
あの時はキラにあれだけの才能が隠されてるだなんて、思いもしなかった。
ただ、都合が良さそうだったから。
優等生のくせに帰宅部だし、別に運動神経も悪いわけじゃないし。変に帰宅部で内申書悪くするよりも、何か部活でも入って活動してた方が得するんじゃねーの??
その思いが一番で、藤堂うんぬんの話は後付けで、目の前にある廃部の危機を救うために声をかけた。
ただ、それだけだったんだ。
だけど……
予想に反してキラは凄かった。
才能のあるヤツってやっぱり凄い。理屈じゃなく才能のあるヤツって、きっとこういうヤツなんだ、って本能でそう思った。
理想的な体型に、平凡なヤツがどんなに努力しても手に入らない競泳センスにレース感。
その全てを吉良光太郎は持っていた。
教えれば教えるほど。
伝えれば伝えるほど。
乾いたスポンジのようにグングン吸収して、昨日よりも今日。今日よりも明日、驚くべきスピードで成長していくキラを見るのは楽しかった。
俺がガキの頃、親父が自己破産なんてして、もうスイミングスクールには通えなくなるかも、って時
「月謝は出世払いでいい。」
と言ってくれた当時のオーナーの気持ちが初めてわかった。
人を育てるのは金じゃないんだ。
本当に才能があるヤツに巡り合った時には、金とか名誉とか、そんなものはどうでも良くて…こいつを育てたい、っていう気持ちだけが勝つんだな。