あの日、あの夜、プールサイドで


「ママ、ママ…!!」


俺の腕の中で母親を求めて大暴れする、寧々。静かな顔で俺を見つめる静枝さんに、心配そうな表情をした真彩。


この手を離せば寧々とはお別れ。
もしかしたら一生会えなくなるかもしれない。


そしたら…俺はまた一人になる。




誰にも求められず
誰にも認められず
無償の愛を与えられる喜びも与える喜びもない、生きる価値もない寂しい毎日。



そんな日々を俺はこれから過ごすのか??


耐えられない!
そんな毎日、耐えられそうにない!!


寧々がくれた幸せ
愛し愛される幸せ。
満たし満たされる幸せを知ってしまった今、知らなかったあの日々に戻ることはもうできない。






――イヤダ…!!
絶対にイヤダ!!
寧々は絶対に渡さない!!




静枝さんの目に反抗するように
寧々を抱きしめる力を強くすると



「光太郎。」


「……。」


「あなたは寧々ちゃんからたった一人のお母さんを奪う気なの??」



静枝さんは静かに俺に語りかける。




「ママ…ママ…!!」




俺の腕の中で必死に母親を求める、寧々。




わかってる。
わかってるよ、静枝さん。


寧々にとっては世界でたった一人の
大切な大切なお母さん。



どんなバカなオンナだろうが
だらしないオンナだろうが
この女は寧々の母親



それは紛れもない事実。



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