あの日、あの夜、プールサイドで
俺はもうこれ以上「頑張れ」と親父には言いたくなかった。
頑張ってる。
親父は十分、頑張ってる。
親父くらい必死にがむしゃらに、一生懸命頑張って生きてきたヤツを俺は見たことがない。
だから……
俺は最後くらいは親父に安らかでいて欲しかった。最後の最後のその時まで“頑張れ”だなんて死んでも言えない気がしたんだ。
「俺はオヤジに残された短い時間を安らかに過ごして欲しいんです。きつい抗ガン剤治療や放射線治療を行うのではなく、ホスピス(緩和)ケアでお願いしたいと思っています。」
医師に、そうお願いをしたら“きちんと治療をする道も考えてみるべきです”とお説教をし始めたけれど、俺の意志が固いのを確認すると
「ホスピスケアは本人の承諾も必要です。
ご本人にがん告知をしてもよろしいですか??」
というので、俺はコクリと小さく頷いた。
その3日後。
親父の病室で俺は医師に付き添ってもらいながら、親父の病名を告知した。そして……親父に残された、わずかな時間も。
自分のカラダがガンに犯され、自分の寿命はあと半年しか持たないと知った後、オヤジは一瞬呆気に取られた顔をしていたけれど
「そうかぁ、ガンか…。
悲しいけどしょうがないな。
じゃぁここからは遠慮なく、和也の好意に甘えて休憩することにするかな。」
そう言って、力なくニッコリ笑った。
幸いにもオヤジが運び込まれた病院にはホスピス病棟が設置されていて、運よくベッドの空きもあったことから、親父はその日のうちにホスピス病棟に運び込まれることになった。
その日から……俺は家、学校、病院を往復する毎日が始まった。