あの日、あの夜、プールサイドで
家と職場と病院を行ったり来たり、往復する毎日。
部活が終わったら病院に行って、親父の洗濯物やら足りないものやらを貰いに行って、時間の許す限り語りあって、家に帰ったら帰ったで、持ち帰りの仕事に目を通して、眠るのは午前様。
カラダはきついけど、親父との時間がもうあとわずかしかないと思うと、一分一秒が惜しかった。
話したいことが山ほどあった。
お人よしで、不器用で、バカがつくほど真面目な親父。だけど誰より優しくて、誰よりも強い心を持った自慢のオヤジ。
カラダはきついけど、あと少ししか一緒にいられないのなら、後悔しないようにいられるだけ一緒にいよう、と心に決めていた。
家、職場、病院
その3つを行ったり来たりする日々の中。
ある小春日和の日曜日
病院の中庭でコーヒーを飲みながら日向ぼっこをしていると
「まーくん!ダメだって!
走っちゃダメ!!」
「うっせー!
ダメダメうるせーんだよ!バカオンナ!!」
パジャマ姿のヤンチャ坊主がテケテケと俺の目の前を走り抜けていく。
――小児病棟の子か??
そんなことを思いながらボケッと目の前の光景を眺めていると
「もう!そんな悪い言葉覚えちゃダメでしょ!!ほら、病室に帰るよ!!?」
ジーンズにラフなTシャツの出で立ちをしたキレイな女の子が、ヤンチャ坊主のカラダをガスッと捕まえて抱きしめる。
女の子に抱っこされたまんまジタバタと体を動かして暴れる男の子を温かい瞳で見つめる女の子。
いつもなら“ふ~~ん”って流す当たり前の光景だけど
「離せよ!真彩!!」
ガキが発したその一言に俺は硬直した。