あの日、あの夜、プールサイドで


真彩


その名前には聞き覚えがある。
確か…キラの彼女だよな??



思いがけないところで聞こえた名前に驚いてフッと顔を上げると


「あれ…??もしかして…月原先生?!」


クソガキを抱っこしたまんま“信じられない”という顔をした彼女とバッチリ目が合う。


肩下まで伸びたストレートの黒い髪。スラリと伸びた手足。そして何よりも二年前にあった時より随分大人びたその顔に、思わず絶句する。

ーー綺麗になった。

素直にそう思えて彼女の問いには何も答えず、ただただ押し黙って彼女の顔をじいっと見つめていると


「あ…、やっぱり…違います??」


彼女は不安そうに眉を歪める。



「あ!悪い悪い!
あんまり久しぶりだったから固まっちまった!久しぶりだね、真彩ちゃん。仰せの通り、俺はキラの元担任の月原和也です。」



不安そうな彼女の表情を見て、我に返った俺がぺこりと小さくお辞儀をすると


「良かったぁ。
違う人だったらどうしよう、って一人で焦ってました。」


そう言って。
真彩はニッコリと柔らかに微笑んだ。


その笑顔は優しくて柔らかくて、慈愛に満ちたマリア像のように清らかで。


実の母親を知らないキラが、彼女に夢中になる理由が少し分かった気がした。


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