あの日、あの夜、プールサイドで
「そうに決まってるだろ??
向坂さんは顔もカワイイし、優しくてイイヤツだし。キラにはもったいないくらいイイオンナだよ。」
「そ、そんなこと……」
「あるって。
俺が言うんだから間違いないだろ??
もっと向坂さんは自分に自信を持つべきだよ。」
小さくなった彼女の背中をポンと叩くと、真彩はほんのり頬を赤く染める。
――ウブだなぁ……。
20代も半ばになると恋愛沙汰にも妙になれてきて、純な気持ちで人を好きになるのが難しくなる。
付き合えるかな?とか
自分に釣り合うかな?とか
そうでもいいことに気を取られすぎて、心のままに動けない。
だからこそ“キラが好き”って気持ちだけで、恋に身を焦がせる真彩を何よりもまぶしく思えた。
自分が失った“何か”を持っている真彩が誰よりも輝いて見えたんだ。
そんな彼女を応援したくて
「自分に自信を持って飛び込んでおいで?もしキラが断ったりしたら…俺が正義の鉄拳を食らわしてやるよ。」
キラを殴るフリをしながら笑いかけると、真彩はココロの底から嬉しそうな顔をして
「うん!
その一言で勇気が出ました。
コウちゃんを…デートに誘ってみます。月原先生……本当にありがとう…!!」
と、ほほ笑んだ。
その笑顔はまるで春の陽だまりのような温かい笑顔で、俺の心の芯をホッコリと温かくさせる。
どうしてだろう。
彼女が笑うだけで彼女の周りがキラキラと輝いて、俺のモノクロームの世界を鮮やかに染め上げる。
――この笑顔をずっと見ていたい
素直にそう思えた。
彼女はキラの想い人。
そして想われ人だとわかっているのに……俺は彼女に惹かれる自分自身を抑えることが出来なかった。
彼女が欲しい
病院の陽だまりの中で柔らかに笑う彼女を見て、俺はそう思わずにはいられなかった。