あの日、あの夜、プールサイドで
彼女は教え子の“カノジョ”
その距離感は保ってるハズだった。
わかってるつもりだった。
キラはああいう生い立ちだから、他人をあまり信じない。そして“寧々”という女の子が亡くなってからは、その症状が顕著になっている。
信じたいのに信じられない。
自分の大切に想っている人は、いつか自分の側からいなくなるんじゃないか。
自分はそういう星の元に生まれていて、幸せになんてどう頑張ってもなれないんじゃないか……。
その恐怖心からアイツが逃れられずに、見えない部分で苦しんでいるのは痛いほどわかっているつもりだった。
アイツを守るためには真彩を奪っちゃいけない。
真彩を奪ったらアイツはきっとダメになる。
アイツがアイツらしくいられる、最後の砦。
それが向坂真彩という少女。
そう、わかっていたはずなのに……
「先生。」
「…ん??」
「コウちゃんにね?断られちゃった……。」
「え??」
「ワタシとの未来の為に、練習は休めないんだって…。」
春の陽だまりに揺れる、病院の中庭で
その言葉、その表情を見た瞬間
俺の中で何かが弾けた。