あの日、あの夜、プールサイドで
寧々は『世界で一番コウにいちゃんが大好き』だと言った。
その気持ち、その言葉に嘘はないけれど……
「ママ…ママぁ…!!」
寧々が無条件に愛して、無条件に求めているのは俺じゃなく母親なんだ。
俺はどんなに頑張っても母親にはなれないし、母親には勝てない。
寧々が一番大好きなのは俺だけど
寧々が誰よりも求めているのは母親である、カノジョ。
悔しいけどさ??
寧々が母親を求める気持ちには
きっと勝てない。
悲しいけど、きっと勝てない。
大好きな寧々。
俺のさみしい気持ちを寧々は埋めてくれた。
どこか満たされない寂しさを寧々はひたむきな愛で慰めて、俺の心をいやしてくれた。
俺は寧々に救われた。
寧々のこの小さな手と小さな体
彼女の手のひらいっぱいの愛が俺に幸せを教えてくれた。
じゃぁ…今度は?
寧々のさみしさと
寧々の満たされない気持ちは誰が癒してくれるんだ??
俺が癒してやりたい
守ってやりたい
そう思っていたけど……そうじゃないのかもしれない。
寧々のさみしさ
寧々の切なさ
それを全部埋めてくれるのは母親代わりの俺じゃなく…本物の母親。彼女以外にありえないのかもしれない……。
そう思った瞬間
俺の腕からフッと一瞬力が緩む。
そのスキを寧々が見逃すハズもなく
「ままーーーっ!!」
寧々は母親に向かって一目散に駆け出した。