あの日、あの夜、プールサイドで


俺の腕の中からすり抜けて
母親目指して一目散に駆け出す寧々。


そんな彼女を両手を広げて
優しくキャッチする母親。



「寧々…寧々…!!」


「ママ、ママァ…!!」



抱き合いながら
二人して泣き出す、寧々と母親。



俺がいたはずの場所に、今はあの母親がいる。




――チェっ…。




なんだよ、寧々。
俺といる時より、ずっとずっといい顔してるじゃん。



悔しいはずなのに
悲しいはずなのに
どこかさっぱりした気分の自分もいる。




涙でグチャグチャで
顏なんていつに増して不細工で
鼻水もぐちゃぐちゃだし、見られたもんじゃないけど……なんかいいな。



俺の救い
俺の帰る場所は寧々のいるこの場所だったけれど、寧々の帰る場所はここじゃなかったんだな。




寧々の帰る場所
帰りたい場所は、母親の胸の中だったんだ。




安心しきって
今までのうっぷんを晴らすかのように泣き叫ぶ、寧々。




そんな彼女を見ていたら…
やっと静枝さんの言葉が胸に染みてきた。



『あなたは寧々ちゃんからたった一人のお母さんを奪う気なの??』



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