あの日、あの夜、プールサイドで


だから俺は意地になってた。
寧々を渡したくない、と。
俺がこの手で寧々を幸せにしてやるんだ、と。



だけど……
こんな風にママ、ママって泣きじゃくる寧々と母親を見てると、案外そうじゃないのかもしれないと思えだした。




ちゃんといるのかもしれない。
俺たちのコトをずっとずっと愛して、ずっとずっと大事に思ってくれていて、本当に自分たちを求め、救ってくれる母親がいるのかもしれない。



本当に心の底から俺たちを望んで
必死の思いで迎えに来てくれる、そんな母親もいるのかもしれない――……





「ごめん、ごめんね、寧々。
ママ、がんばるから。
がんばるから一緒に暮らそう??」


「ママ…ママァ!!」


「愛してる、愛してるわ、寧々。
ママ…寧々がいないと生きていけない…!!!」





チャラい恰好
安っぽいホステスみたいな恰好をした寧々の母親。


見るからに軽薄そうで
金にだらしがなさそうで
ダメダメな母親だけど……


寧々に対する愛情は本物だと思えた。



悔しいけど、本物だって思えた。





抱き合いながら
泣きあいながら
お互いの愛を確認する寧々と母親。



そんな二人を呆然と見つめていると



「いいものでしょう??」



静枝さんはそう言って
俺の肩にポンと手を置く。



< 26 / 307 >

この作品をシェア

pagetop