あの日、あの夜、プールサイドで
その言葉を告げると真彩はフッと上を向いてフルフルと首を振る。
「やだ⋯⋯。ヤだよ、先生⋯⋯。」
大粒の涙を湛えながら必死に拒否する真彩の肩にポンと手を置くと
「じゃぁ、真彩はキラを裏切れるのか??」
俺は真彩が絶対に聞きたくないであろう言葉を口にする。
「キラの目の前で俺が好きって言えるか??別れてくれって言えるのか??」
「そ、それは⋯⋯!!」
「堂々と胸張って“俺を選ぶ”って言う勇気はあるか??」
真彩はグッと唇を噛むと申し訳なさそうに視線を反らす。
「内緒で付き合ったって、内緒で逢瀬を重ねても誰も幸せになれない。真彩、俺はそんな道を君に選んでほしくはないよ。そんなことする為に⋯⋯好きだ、と言ったわけじゃない。」
他のオンナなら。
これが真彩以外のオンナなら喜んで頂いて、内緒で美味しく頂いてたと思う。
“寝取られる男が悪いんだ”
そんな持論を振りまきながら。
でも⋯⋯相手が真彩だから、適当に欲望の赴くままに抱くことはできない。幼稚な独占欲を言い訳に、彼女に二股させる気もない。
100か0かの、俺たち二人の関係性。中途半端はありえない。
好きか嫌いか、そのどちらかしか俺たちには選べない。
「真彩、オマエは弱った俺に同情してるだけだよ。オマエが恋してるのはずっとずっとキラ一人だけだろう??オッサンの告白なんかで惑わされちゃダメだって。」
多分⋯⋯さ??
真彩は自分を支えてくれる手が欲しいだけなんだ。無条件で自分を守ってくれる手が欲しいだけ。俺はちょうどいい所にいたオトナで、男で、ただそれだけのことだったんだよ。
——真彩は俺が好きなわけじゃない。
キラよりも誰よりも、自分を甘やかせてくれるオトナだから、依存してるだけなんだ。
悲しいけど。空しいけど。
真彩が俺に抱いている感情はきっと恋とは程遠い。
「送っていく、真彩。
オマエはキラのカノジョなんだから。」
彼女の頭をポンポンと叩いて顔を覗き込むと、真彩はしばらく身動き一つしなかったけれど⋯⋯。しばらくすると小さくコクンと頷いた。