あの日、あの夜、プールサイドで
ーー真彩の手を離そう。
俺はそう決心していた。
真彩と二人で帰る、帰り道。
空には夏の大三角形が広がり、白鳥座のデネブが大きく空に輝いている。
きっとこれが最後になるだろう、二人のデート。それを満天の星空が見つめていた。
正直なところ、真彩のことを吹っ切りたいのか、執着したいのかは自分でもよくわからない。
背中に感じる温かさを離したくないとも思うし、風が運ぶ彼女の甘い髪の匂いを愛しいとも思う。
だけど……
『竹原!この前俺、自己新更新したんだよ!?すごくない?!』
ワンコみたいに懐いてて、優しいくせに淋しい目をしたキラを見捨てられない。
幸せに…なって欲しいと思う。キラには誰よりも幸せになってもらいたいと思ってる。
今の俺には真彩を好きだという気持ちより、そっちの方が気持ちがデカイ。
「キラを選ぶんなら、よそ見はするな。信じてやれよ…キラを。」
星が輝き、草むらに隠れた虫たちが涼やかな声で大合唱をする、帰り道。
真彩はその後何も言葉を発さなかった。
うん、とも
いやだ、とも言わず
ずっと沈黙を続けた真彩。
真彩は俺の腰に回した腕をギュッと絡めて、俺の背中にピッタリと頬を寄せてた。
『もうこれで、お別れだから。』
そう言っているように、名残惜しそうに、俺の体温を刻み込むように、そっとそっと体を寄せて、抱きしめていた。
俺も……彼女が回した手の上にそっと左手を重ねた。
彼女の温もりを忘れないように、柔らかな肌の感触を忘れないように、俺は彼女のて 手の上に左手をそっと添わせた。