あの日、あの夜、プールサイドで


え?!


核心をつかれてドキッとした時にはもう遅い。



「好きなんでしょう?真彩ちゃんのこと。」

「え?!」

「あら、気づかれてないとでも思ってたの??月原さんって気持ちがダダ漏れだから、みんな知ってますよ。」


「え、えぇ!?!」


な、なんだよそれ!!
ダダ漏れって…なんだよ、その表現!!



婦長さんは何の害もない、ニッコリとした天使の笑顔をたたえながら


「なのに紳士ぶって真彩ちゃんに手も出さずに、フラフラしてる状態が、私たちにはもーーうじれったくって!」


「は、はぁ?!」


「だからね?
この際、はっきりさせたくて月原さんをお呼びしたのよ!」



こんな恐ろしいことを言い出す始末。





ーーな、なんなんだよ、この人!




ドン引きしながら婦長さんの顔をマジマジと見ていると


「ってことで行きましょ?中庭。」

「…え?!」

「渡したいものがある、って言ったでしょう?お父様はね?あなたにお手紙を残されてるの。」



そう言って。婦長さんはポケットに手を忍ばせて一枚の白い封筒を取り出した。


何の変哲もない、白い封筒。


だけど婦長さんの指先の隙間から、少し角ばった懐かしい親父の字が見え隠れしている。


【和也へ】


そう書かれた文字が懐かしくて、嬉しくて。思わず手を伸ばすと

「ダメですよ。」

いたずらっ子みたいな顔をした婦長さんはシュッと手を引いて、その封筒を元あった胸ポケットに素早くもどす。



え、ええー?!



目を丸くしながら婦長さんを見つめると


「これはゆっくり中庭で読んでください。」



ニッコリと微笑んで。
あっけに取られたままの俺を置き去りに、婦長さんはテクテクと中庭に向かって歩き始めた。


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