あの日、あの夜、プールサイドで
婦長さんに続いて外に出て、いつも真彩と座っていたベンチに今日は婦長さんと二人で腰掛ける。
キャハハと高い声をあげて走り回る子供達を横目にしながら、カフェオレを軽くすすると
「はい。お父様のお手紙。」
婦長さんは胸元から親父の手紙の入った封筒を俺に差し出す。
封筒には【和也へ】と書かれていた。
久しぶりに見た親父の文字にジンとしながら受け取ると
「お父様にね?言われたの。」
「何をですか?」
「俺が死んで二ヶ月経っても三ヶ月経っても和也がグズグズしてたら、これを渡してくれ、って。」
そう言ってフフッと笑う婦長さんを横目にしながら、中身をそっと取り出すと…
【人生は一期一会。
悔いのない人生を歩め。】
大きな文字でそれだけが書かれていた。
親父……
『好きなら好きと言えばいい。
どんなに人から非難されようと、後ろ指刺されようと、まっすぐに生きればそれでいいじゃないか。』
『愛してる、和也。
俺はお前を誇りに思う。』
あの病室で最後に言った親父の言葉が耳の奥に蘇る。
何度も何度も親父の書いてくれたメッセージを心に刻んでいると
「月原さん。
大人らしく自分の気持ちを誤魔化すのもいいかもしれません。でもね?あなたも真彩ちゃんもちっとも幸せそうに見えないのは何ででしょうね。」
「………。」
「自分の気持ちに蓋をして、真実から目を背けて、、、一体誰が幸せになれるでしょうねぇ。」
優しい笑顔を向けて、彼女は俺に問いかける。
ーー自分の気持ちに正直に…か。
「……言いたいたいことはわかりますよ。でも、俺が正直になることで不幸になる人間が確実に1人いる。」
真彩が他の男と付き合っていたなら、俺は迷わず寝取ると思う。
“取られた男がバカなんだよ。”
そんな持論を口にしながら。
だけど真彩の恋人は、あのキラだ。
仕方ないだろ?
あきらめるしかないだろう。
相手がキラだから。
俺は俺を抑えるしかない。