あの日、あの夜、プールサイドで
「多分…今と真逆の方法を選ぶでしょうね。」
フッと笑ってそう告げると
「それなら…直感に従うべきです。時間は生きとし生けるもの皆に与えられたギフトだけれど、与えられた長さは人それぞれなんです。後からこうしておけばよかったと後悔しても…遅いんですよ?」
婦長さんはきっぱりとした口調で俺に言い切る。
――これ以上は水掛け論だな。
言いたいことはわかってる。
自分の気持ちに正直に、嘘偽りのない心で、キラから真彩を奪えと言ってるんだろう??
オヤジも婦長さんも、俺が心配でそう言ってくれているのはわかる。
そりゃ~、欲しいさ。
真彩は欲しい。
この手に抱きたい。
サラサラの髪に触りたい。
あの甘い香りのする唇にもう一度だけくちづけたい。
自分の気持ちに正直になって、迷う真彩を大人の手練手管を使って騙し通して、クソガキなキラからあの子を奪うことなんてひどく簡単な事のように思える。
婦長さんも
オヤジも
俺を心配してのことなんだよな??
きっと真彩と共に残りの時間を過ごせるのなら、それはとても幸せなことだと思うよ。
じゃぁ…さ??
キラは誰が癒すんだ??
あいつの心配は誰がしてくれるんだ??
お人好しかも知れない。
それこそ偽善なのかもしれない。
だけど俺は裏切れない。
キラキラのダイヤモンドみたいなアイツの瞳を曇らせるようなことはしたくない。