あの日、あの夜、プールサイドで
その笑顔は驚くほどに爽やかだった。びっくりするほど爽やかだったから…こわばっていた自分の顔の筋肉が思わず緩んだ。
そんな俺の顔を見て満足そうに微笑むと
「月原さんはこんな風になっちゃダメよ?どんな時でも自分は幸せだ、って言い切れる人じゃなきゃ、ダメ。」
彼女はキッパリと言い切った。
「いい言葉よねー。
【人生は一期一会。悔いのない人生を。】その言葉の通りだと思う。間違ってもいいのよ。遠回りしたって構わない。最終的に自分が後悔さえしなければ…ね。」
「…はい。」
「幸せになってね、月原センセ。あなたが笑顔で生きている。ただそれだけがお父様の唯一の願いだと思うわ。」
爽やかな笑顔で言い切ると、婦長さんはクルリと踵をかえして元来た道をまっすぐに歩いて行った。
寒い冬に訪れた、暖かい光の隙間を縫うように彼女は颯爽と歩いて行って…いつしか俺の視界から消えていった。
ただ一人残された俺は、しばらく中庭で考えを張り巡らせた後、勇気を振り絞って携帯を取り出した。
《会いたい。》
ただその四文字だけを真彩に送った。
しばらく真彩からは何の返事も返ってこなくて。もうダメなのかな、遅すぎたのかな…。
そう思ったその日の夜中。
《わたしも先生に会いたい。
苦しいよ、先生。》
真彩から、こんなメールが届いた。