あの日、あの夜、プールサイドで
口ごもる真彩。身動き一つ取れない俺。どれくらいこうしてだんまりを続けていたんだろう。
何も言わず、何も聞かず、ただ二人で押し黙っていると、ながしの方からピチャンと水が落ちる音がした。
静かな部屋に響く、大きな水音。真彩はゆっくり息を吸うとしゃがみこんで俯いた姿勢のまんま
「私、もう無理だよ。本当は月原先生のこと好きなのにコウちゃんのこと好きでいるフリは…もうできない。」
静かな声で言い切った。
「意味…わかって言ってんの??」
俺にすがるってコトはキラを裏切るってことで、ヤツを傷つける事を厭(イト)わないっていう決意表明なんだぞ??
真彩にとってはキラは恋人である以前に大切な家族なハズだ。
ずっと二人を見てきた、俺にはわかる。
恋人として家族として、兄弟のように身を寄せ合って、互いの体温を感じながら育ってきた大切な半身。
そんなキラを切り捨てる勇気が真彩にはあるのか…??
車のカギを握り締めたまんま玄関でうずくまる真彩を見つめていると彼女はゆっくりと瞳を上げて、静かに。だけどどこか決意のある声で真彩は言った。
「わかってる…わかってるよ、先生。
だけどね??私、先生が好き。どんなに繕っても、どんなに隠しても、それが真実。もう…自分は偽れない。」
「真彩…。」
好きな女からの涙ながらの告白。
そんな告白が嬉しくない男なんてこの世の中にはいないと思う。
だけど…だからこそ怖くなった。
俺が奪っていいのかな、って。
一時の彼女の感情につけこんで、流されるまま奪っていいのかな…って。