あの日、あの夜、プールサイドで


◆ ◆ ◆ ◆


【今日が人生最後の日なら、あなたはどうする??】



柔らかい真彩の体。
涙でぐしゃぐしゃになった彼女を抱き上げて、そのホッペにキスをしながら思い出したのは婦長さんのあの言葉。





【人生は一期一会。悔いのない人生を】



泣きじゃくる真彩を世に言うお姫様抱っこの状態のままリビングのソファーに連れて行って…。


隣に座らせ慰めているうちにもっと側に行きたくなって。お互いがお互いを求めあい、生まれたままの姿で抱き合う最中に思い出したのは、親父の遺してくれた、あの言葉。




8つも年下のかわいい彼女。
誰よりも大切に思っている教え子の大切な彼女。


我慢…しなきゃいけなかったんだと思う。欲しがっちゃいけなかったんだと思う。


だけど触れ合った瞬間に、抱き合った瞬間に、もうこの人なしでは生きていけないと心底思った。



還って来たかったのは、ここだったんだと。



どんなに遠回りをしても、誰を傷つけたとしても、何を敵に回したとしても、還ってきたかったのはここだったんだと…バカな俺は今更気づいた。



ーーごめんな、キラ。



お前が誰にも譲れないと思っている大切な宝物は、俺にとってもかけがえのないものだったみたいだ。



キラ。
恨むなら、俺を怨んでくれ。
憎むなら、俺を憎め。
悪いのは俺なんだ。最後の最後で彼女を欲しがった俺に全ての罪がある。


認めるよ。
俺は最低の指導者で、最低の大人だよ。


真彩への憎しみは全部俺が引き受けるから…どうか真彩を憎んでくれるな。


彼女を傷つけないでくれ。キラ…。




情事の後ソファーの上で疲れ果てて眠る真彩の寝顔を見ながら、俺は心の底からそう願った。



「一緒に…乗り越えて行こうな。」


ポツリと呟いて彼女の髪に指を絡ませると

「ん…、センセ…??」


まどろみながら真彩が俺の名前を呼ぶ。


「起きた??」


そのポヤンとした表情が可愛くて、彼女の顔を覗き込むと


「うん…。」


彼女は恥ずかしそうに微笑んだ。

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