あの日、あの夜、プールサイドで


◆ ◆ ◆ ◆



ただ好きなだけ。




その短い言葉は、この恋の本質だったと思う。



部屋に散らばる衣服をまとって、俺の部屋を出て。俺の車に乗り込んで愛児園へ向かっている間、真彩は一言も口を開かなかった。


無言の車内に響くのはカーペンターズの切ない音楽。


何も言わない、何も聞かない車内の中でそっと繋がれていた左手だけが温かかった。



ーー確か…
カレンって実の兄貴に惚れてたって説があるんだよな。



大好きなカーペンターズの曲close to you
。下世話な話だけど、この曲を聴いていたらそんな噂が昔飛び交ったのをふと思い出した。




なんでわざわざ自分の兄貴に?
そんなめんどくさい恋愛になんで足を踏み入れたんだ??


少し前の俺は間違いなくそう思ってた。自分の感情くらい自分でブレーキかけてコントロールしろよ。そうバカにしてたと思う。


だけど…今は違う。





止めたくても止められなかったんだよな。



そう…思う。






自分の感情をコントロールできる恋は恋じゃない。きっとコントロールできないから…恋なんだ。


恋はするものではなく、おちるもの。



そんな言葉が今更ながらによくわかる。



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