あの日、あの夜、プールサイドで
夕暮れに染まる、町並み。
美しいカレン・カーペンターの歌声を聞きながら車を走らせていると、いつの間にか愛児園の赤い屋根が視界の隅に入ってくる。
-―もう…お別れか。
楽しかった時間は夢のように過ぎて
幸せだった時間の魔法が解ける。
ゆっくりゆっくり愛児園に着かないように車を走らせていると、俺の気持ちに気付いたのか真彩が俺の左手を握り締める力を強くする。
-―カワイイ。
良かった。
真彩も同じ気持ちでいてくれたんだ。
別れがたいのは俺だけじゃない。
もっと一緒にいたいと思うのはお互い同じだったんだ。
そう思うだけで。そう感じるだけで心が強くなれるんだから、俺って意外と単純だとしみじみ思う。
白い車をゆっくりと路肩に止めて、ブレーキを引いたあと
「着いたよ、真彩。」
そう声をかけると
「うん……。ありがとう、せんせい。」
真彩はそう言って、俺の顔をフッと見上げた。