あの日、あの夜、プールサイドで
不安そうに。まるで捨てられた子犬のようにすがる瞳で俺を見つめる、真彩。
そんな彼女が可愛くて
「なんて顔してんの。」
俺は笑って真彩の頭をクシャっと撫でる。
「だって……。」
「だってもクソもないだろ??
また明日、会えばいい。」
「え…??」
「学校が終わったらうちに来れば??
明日も明後日もずっと、うちに遊びに来ればいい。」
次第に藍色に染まりゆく景色の中で、俺は真彩に顔を近づけると
「好きだよ、真彩。大好きだ。」
俺は真彩の唇に触れるだけのキスを落とした。
時間にすれば何秒間か。
だけど俺たちにとっては永遠にも似た長い長い時間。
お互いの体温、お互いの唇の柔らかさに名残惜しさを感じながら、ゆっくりと唇を離すと
「私も…。」
「え??」
「私も大好き。先生が…誰よりも好き…。」
真彩は泣きそうな声でそう囁いた。
藍色に染まる空に耳に優しいカーペンターズの歌声。どちらともなく手を伸ばして指を絡めて、身を寄せ合って、離れないように、無くならないように、固く手をつなぐ俺たち。
流れていたClose to Youが終わって、車内が一瞬の静寂に包まれたとき
「……行くね、先生。」
真彩は決心したように手を離して、車のドアに手をかけた。