あの日、あの夜、プールサイドで
騒ぎを聞きつけた園長先生がキラを止め、アイツが痛いほどに苦しい笑顔で「プールに行く」と言い放ちその場から消えていった、その少し後。
「大丈夫?大丈夫?先生。」
「大丈夫だって。俺はそんなにヤワじゃないから、心配すんな。」
「だけど…!」
「いいんだ。こうなることはすべて覚悟の上だったんだから。」
キラに殴られ、道路に倒れ込んでいた俺を見て、ハラハラと真彩が泣く。
俺の頬に触れる指先が冷たくて、ガタガタと小刻みに震える肩が可哀想で
「大丈夫だから、落ち着けって。俺はそんなにヤワじゃないって言っただろ?」
口の中が切れていて。喋るたびにどこかがチリチリと痛んで、鈍い鉄の味がするけれど彼女を安心させたくて無理やり笑顔を作って見せた。
真彩は真っ青な顔をしていた。
きっとそれは俺も同じだったと思う。
裏切ることはわかってた。
キラを傷つけることもわかってた。
だけど…それがこんなにも苦しいことだとは、想像していなかった。
罪悪感で心が裂けそうだ。
最後に見せた、あのキラの切ないほどに痛い笑顔を思い出すだけで、罪悪感で吐きそうになる。
わかっていたつもりだった。
苦しみも、重みも、奪う辛さも何もかも。
だけど…
これほどとは思わなかった。