あの日、あの夜、プールサイドで



「愛は与え合う、柔らかで美しいもの。そして愛は普遍。

ですけど恋は奪い合う、狩に似たもの。それはとてもうつろいやすく、夏のカゲロウのように不確かで醜さを伴うもの。

私はそう思います。だから真彩ちゃんが光太郎よりも月原先生を選んでしまったことも…仕方のないことです。心は移ろってしまうものです。自分の意志とは裏腹に…。」



園長先生はそう言って、俺たちの前に紅茶の入ったティーカップを置いてくれた。



柔らかな湯気の立つ紅茶を見ながら、園長先生の瞳を見つめていると


「月原先生。光太郎のコトは気になさらないでください。」


「え…??」


「これも…あの子の試練です。」



そう言って、園長先生は木枯らしの吹きすさぶ窓の外を見つめる。




「あの子は愛に臆病なところがあります。真彩ちゃんのことは愛してはいたのでしょうが…それ以上に失いたくなかっただけです。」


「失いたくなかっただけ??」



園長先生はコクンと頷くと



「あの子は…自分が愛した人、自分が求めている人は、自分の目の前から必ずいなくなるのではないか、という強迫観念にかられています。」



遠い目をして園長先生はそういった。


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