あの日、あの夜、プールサイドで


顔をクシャクシャにして、滝のような涙を流して、子供のように泣き叫ぶ真彩。


そんな真彩を見てクスクス笑うと


「なんて顔をしてるの、真彩ちゃん。」


そう言って園長先生はゆっくりとソファーから腰を上げて真彩に近づく。



「ふぅ…っ!ヒック…!!」



嗚咽をあげながら泣く真彩をギュッと抱きしめると



「幸せにおなりなさい。真彩ちゃん。
そして…いつでもここに帰ってきてください。あなたのもう一人のお母さんは…間違いなく私なんですから。」



そう小さく呟いた。



その言葉を聞いてさらに真彩は泣きじゃくり始めた。そしてしばらく園長先生に抱きついて泣きじゃくり、園長先生の胸元を涙でグチャグチャに濡らした後…



「私の…私のお母さんは園長先生以外にいません……!」

「真彩ちゃん…。」

「ありがとう。……お、お母さん……。」




真彩は生まれて初めて、園長先生のことをお母さん、と呼んだのだった……。






◇ ◇ ◇ ◇




寒い寒いあの二月の夜。
光の子愛児園には真彩の悲痛なまでの泣き声が響き渡っていた。


そしてその日の夜。
園長先生と相談した真彩はこっそりと愛児園を出て…俺の家にやってきた。



凶暴で、自暴自棄になっているキラがの近くに真彩がいたら、真彩を危険な目に合わせないとは限らない。念のため月原先生のお家に避難しましょう。


園長先生はそう言って引かなかった。


きっと…キラの持つ情の強さを知っていたからだと思う。




4月からは真彩は仮契約を済ませていたアパートに引っ越して一人暮らしを始める。それまでの二ヶ月の間は俺の家で仮住まいをする。



そう…約束していたはずなのに、4月になっても5月になっても、真彩は俺の家に転がり込んだままだった。




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