あの日、あの夜、プールサイドで
「おかしいわよね。まだ十代のクセに自分の子供の名前を決めてるだなんて。でも…キラキラのダイヤモンドのように光り輝く男の子…で光太郎。ずっと…決めてたらしいわ。」
「え……。」
「自分の死期を悟ってたのかもしれないわね。もしかしたら私のお腹に自分の子供が宿ってること知ってたのかも。」
自分のお腹を触りながら懐かしそうに言葉を紡ぐ、婦長さん。
「本当は…あの子につけてあげられたら良かったんだけど…ね。」
彼女はそう言って寂しそうにフフっと笑った。
その言葉を聞きながら、頭の中に張り巡らされた一つ可能性。
婦長さんと彼の間に生まれた、一人の男の子。生まれた瞬間に恋人の家族に取り上げられた、一人の赤ちゃん。
生まれてまもなく捨てられた…キラ。
キラの名前は…光太郎。
もしかして2人は…。
ーーだけど…まさかな。
俺はブンブンと首を振る。
こんな近くで…そんなことが起こり得るはずがない。
「素敵な…名前ですね。」
そう答えると
「そうでしょ?私もそう思うの。」
そう言って満足そうにニッコリと微笑むと、婦長さんは大きく伸びをしてまた青く光る空を見つめる。
「あーぁ。こんないいお天気の日はひょっこりあの人が出てきそうな気がするんだけど…なかなか会えないのよねぇ。」
新緑の青葉が夏の光に照らされて青々と輝くころ…俺たちにまた夏が来る。
キラが誰よりも輝く季節がやって来るんだ。輝く水の中で、キラはダイヤモンドのように輝くだろう。
キラ。
もう会うことはないかもしれないけれど、俺は心の底から祈ってるよ。
幸せであるように。
幸せになってくれるように。
そして本当の愛をその手にしてくれるように。
俺は婦長さんの見上げるキラキラ光る眩しい太陽に、強くて眩しい、願いをかけたーー………。
【fin】