あの日、あの夜、プールサイドで
「俺は公務員になるんだよ。
俺に必要なのは水泳じゃなく、勉強。地位も名声も興味ない。興味あるのは堅実な生活、それだけだ。」
ムカつく。
月原は普通の家庭で普通の環境で育ってきたから、こんなこと言うんだ。
ぬるま湯で
誰からも愛されて
何の不安もなく育った、普通のオトコ。
そんな男に俺の気持ちがわかってたまるか!
一人で生きなきゃいけない、俺の気持ちなんてわかってたまるか!!
イラつきを抱えながら
「話がそれだけなら、俺、帰る。」
クルリと踵を返すと
「つまんないねー、吉良。」
月原はバカにしたように俺を見てクスクス笑う。
――ムカツク!!
バカにしやがって!
なんなんだよ!!
「自分だけが不幸だ、とか思っちゃってんの??」
「はぁ!?」
「ガキだな~。しょせんお前はクソガキだな。」
そう言って
月原は冷たく沈んだ目をしてクスリと笑う。