あの日、あの夜、プールサイドで


まだ新しいからか清潔な雰囲気のある男子更衣室。
水に濡れた冷たい床に体を震わせながら、ロッカー前にあるすのこの上に立って


「えぇい!
男は度胸だ!!」


思い切って上着を脱ぐ。



ジーンズを脱いで靴下も脱いで
すっぽんぽんになったところで月原から借りた水着に足を通す。




オリンピックとかで選手が着ているようなピタピタの競泳水着。少し着るのに手間取ったけれど何とか着ることができて外に出ていくと


「よーし。とりあえずこっち来い、吉良。」


月原は俺を手招きする。




誘われるがままテクテクと歩いていくと


「オマエさ?
クロール、バタフライ、平泳ぎ、背泳ぎ、どれが泳げる??」


「…は??」


「いやー。たぶんオマエの背格好からしてバタフライは無理かな~とも思うんだけど、どれができるかなと思って。」


ニヤニヤ笑いながら月原はこんな言葉を口にする。






っつーか…
俺、水泳の授業でしか泳いだことないんだから、どれもできないよ。


バタフライと背泳ぎなんて見よう見まねでしかやったことないよ??






「クロールと平泳ぎなら授業でやったことある。」



「バタフライと背泳ぎは?」


「無理。
やったことないもん。」





そう告げると



「なるほどね~。
じゃぁ…取り合えず2本泳いでみるか。」



そう言って月原はニッコリと笑った。


< 58 / 307 >

この作品をシェア

pagetop