あの日、あの夜、プールサイドで
「あ、吉良。」
「なに??」
「しばらくは好きに泳いでいい。
俺が泳げっつったら真剣に泳げよ。」
「…了解。」
さっきはクロールと平泳ぎ泳げって言ったのに…勝手なヤツ。
気まぐれ月原にそう言われた俺は、のんびり平泳ぎでスーイスーイと軽く泳ぎ始める。
手のひらに感じる水の圧
指と指の隙間からこぼれる水の波がキモチイイ
水の中で浮いてる自分は、陸の上で足掻いている自分よりも、はるかに軽くてキモチイイ。
自分の手と
自分の足にヒレがついているように
水が自分を手助けしてくれながら、カラダがぐんぐん前に前にと進んでいく。
――きもちいい…
水の中をそう感じたのは初めてで、俺は自分自身に激しく驚く。
50Mを平泳ぎで泳ぎ切った時
「おーい、吉良!!」
「え??」
「そっから今度はクロール泳いでみろ!!
もちろん、真剣な!!!!」
月原は真反対のプールサイドから大きな声でこう叫ぶ。
く、クロール!!?
その言葉を聞いて
俺は戸惑いながらも
「…わかった……。」
月原の言いつけどおりクロールを泳いでみることにした。