あの日、あの夜、プールサイドで
思いっきり息を吸って体を沈めて壁を蹴る。力強いストロークで前へ前へと進んでいく俺のカラダ。
息継ぎ越しに見た世界では
「おぉー!!」
水泳部の奴らの感嘆の声と表情が見え隠れする。
――案外、俺イケてないか!!?
ちゃんと泳ぎ方とか習ったわけじゃないけど、普通の奴らよりは泳げてるのが自分でわかる。
進むカラダ
跳ねる水しぶき
そして水の中でキラキラ光る、太陽のプリズム
楽しい
キモチイイ
もっともっと泳いでいたい
そんな気持ちを抱えながら50Mを泳ぎ切り、ザバッと大きく音を立てて立ち上がる。
最高に晴れやかな
最高の気分で月原の姿を探すと
「うーーーん。
クロールはイマイチ……と。」
月原は冷静な顔をしたまんま、茶色いノートに何かをセカセカ書き始める。
な、なんでだよ!!
何で俺の泳ぎがイマイチなんだよ!!
初心者の割には結構イケてる泳ぎだったと思うけど!!?
真剣にイラついて。
冷静に俺の泳ぎを見限った月原に最高に苛立ってクソ男をギロリと睨むと
「ま、速いは速いけど底が知れてるな。
伸びしろを感じないわ。」
「…は??」
「吉良。
オマエのクロールは…そうだなぁ…光る泥団子ってトコかな。」
ニッコリと笑いながら
月原はこんな言葉を口にする。