あの日、あの夜、プールサイドで
そしてノートに何かを書き終わると
「俺が探してるのは泥団子じゃなくダイヤモンドなんだよ。
ツイてないオマエの人生を一発逆転できるような……特別な可能性を秘めた超ド級のダイヤモンドが欲しいんだ。」
「…え……??」
「教えてやるわ、吉良。
俺たちみたいな境遇のヤツがのし上がるにはなー。“普通に上手”じゃダメなんだよ。
他の奴らが持ってねぇ、一撃必殺の隠し玉を磨ききらねぇと中の下で終わっちまうのが関の山だ。」
月原は俺の目を見ながらハッキリと言い切る。
「のし上がりたいんだろ?吉良。
この生活から抜け出したいんだろ??」
この生活から抜け出したいか…だって??
そんなの当然だろ?
逃げ出したいに決まってるさ。
抜け出せるものなら抜け出したいに決まってる。
親がいないからってバカにされたくない。
絶対に俺はこの状況から抜け出したい。
普通にいい会社に入って
普通に働いて
普通に給料もらって
普通に小さなささやかな幸せを気づいていきたい。
親がいないから。
金がないから。
そんな理由でその小さな小さな夢を諦めたくなんてない。
「当たり前だろ!?
俺は普通に幸せになりたい!!」
鼻息荒くしながらそう答えると
「上等だ。」
月原はニヤリと笑ってノートをバタンと閉じる。
そしてツカツカ歩いてくると、飛び込み台の上にウンコ座りをして
「じゃー教えてやる。
親もいない、兄弟もいない、カネもない、そんなオマエが手に入れるのはダイヤモンド意外にありえねぇ。誰も持ってない、持ちえない、それこそ超ド級のでっかいダイヤモンドじゃなきゃ磨く意味なんてどこにもねぇんだ!!」
極悪非道教師・月原はニヤリと笑うと、いたいけな俺にこう叫ぶ。
「わかったらもう1本泳げ!
今度は平泳ぎだ。」