あの日、あの夜、プールサイドで


大きくゆっくり水をかき
まるでウミガメのように泳ぐ、平泳ぎ


さっきは海をまっすぐ泳ぐイルカみたいで、スピードもあって楽しかったのに、今度はなかなか進まない。



――遅っ!!



こりゃダメだろ。
どう考えたってダメだろ。



内心、そう思いながらやっとこさっとこ50Mを泳ぎ切ると



「ふーーん。
泳ぎ方がわかんねぇだけか~。」



月原は興味深そうに俺を見下げる。
そしてジャージをババッと脱ぎ去って、水着姿でドボンと水の中に飛び込むと



「いいか、平泳ぎで大事なのはタイミングだ。」


「は?タイミング??」


「そう。
プル→キック→ストリームライン
このタイミング、このリズムが大事なんだよ。」



そう言って、月原は俺の隣でそのやり方を泳いで見せる。




プル、キック、ストリームライン




最初は魔女の言葉みたいで意味が分からなかったけど、日本語に置き換えると“水をかく→水を蹴る→体を伸ばす”ってことのようだった。




「いいか?
オマエが遅いのはプルとキックを一緒にやってるからだよ。
かいた腕を前に戻し始めるときに脚の引付を開始して……腕が前に戻ったころに蹴り始めてみろ。」




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