あの日、あの夜、プールサイドで
あんなに気持ちいいものだなんて知らなかった。
最初は月原に誘われて半ばイヤイヤだったけど泳いでみて。たった一度泳いだだけで虜になった。
俺は一瞬にして、水の虜になってしまった――……
気持ちよかった。
何も考えずに泳ぐ時間、ただ無心に泳ぐ時間が気持ちよかった。
水が冷たいとか、寒いとかなんて何も感じず。
ただただ気持ちよくて
ただただ楽しかった。
自分の手のひらを見つめながら、その不思議な感覚に浸っていると
「兄ちゃん!」
「寧々!?」
寧々が飛び込み台の上からヒョイッと身を乗り出しながら俺に声をかけてくる。
バカっ!!
落ちたらどうするんだよ!
危ないだろ!?
焦りながら寧々の近くに手を伸ばすと
「かっこよかったよ!兄ちゃん!」
「…へ??」
「泳いでる兄ちゃん、かっこよかった!!
寧々、泳いでる兄ちゃんもっと見たい!!!」
ニッコニコの真夏の向日葵みたいな笑顔を向けて、寧々が俺に笑いかける。