あの日、あの夜、プールサイドで
園長室を出ても俺の怒りはとどまることを知らず、歩くたび、思い出すたびに沸々と怒りがわいてくる。
『ごめん、ごめんね、寧々。
ママ、がんばるから。
がんばるから一緒に暮らそう??』
『ママ…ママァ!!』
『愛してる、愛してるわ、寧々。
ママ…寧々がいないと生きていけない…!!!』
あの日、俺の目の前でそんな言葉を口にして、俺から寧々を奪った母親。
その言葉とその涙を信じたのに。
あの人を信用して寧々を預けたのに、その仕打ちがコレか!!!
俺は行き場のない怒りを壁に向け、思いっきりドンっと殴る。
拳には血が滲み
ジンジンした痛みが拳を襲う。
痛い。
すごく痛い。
こんなちゃちな傷でもジクジク痛む。
それなら…寧々の受けた痛みはどれほどのものだったんだろう。
ちいさな体についた無数の青あざ
傷ついたように笑う、あの笑顔
怯えた声で
何かを隠すように笑う、あの笑顔
「違う…違う…。
違う、違う、違う!!!!!」
俺は…
俺はあんな顔がさせたくて寧々を手放したワケじゃない!!
いつも笑ってほしかった
俺なんかを飛び越えて、世界中の誰よりも幸せになってほしかった
もっともっと輝く笑顔を見たくて俺はアイツを母親に託したんだ…!!!!
それなのに、それなのに…
寧々は今傷つけられてる。
何の理由もなく
何の理屈もなく
ただ傷つけられてる。
アイツの母親と、アイツの父親に。