あの日、あの夜、プールサイドで


「光太郎。
人を嫌いにならないで。」


「…え??」


「あなたは少し人の闇を見すぎているフシがあるから心配です。人はね?醜いけれど優しさと美しさもちゃーんと持ち合わせているの。」



静枝さん……



静枝さんは俺の肩をヨシヨシと撫でると




「悪い部分ばかりで判断してはいけませんよ?人は誰しも心に天使と悪魔を住まわせているのですから。」





そう言って。
静枝さんはニッコリとほほ笑んだ。




「寧々ちゃんのお母さまにもお父様にも、きっと天使が住んでいます。それを信じて頑張りましょう。」





“人を嫌いにならないで”





それは今思えば静枝さんの切なる願いだったように思う。


どこか人を信じられなくて
オトナを信用できなくて
人の闇ばかりを見てきた、俺。


そんな俺を静枝さんは心配してた。
今も昔も、あのころからずっと。



きっと誰かを信じて
誰かと支え合って
幸せも喜びも分かち合える、そんな大人になって欲しかったんだと思う。



だけど…さ??
やっぱり俺は今でも思うんだ。



人は誰も信用できない。


信用できるのは自分と自分の力だけ。


それに…静枝さんだけ。



食うか、食われるか
騙すのか、騙されるのか
傷つけるのか、傷つけられるか


この世界には勝者と敗者


いつだって、その2択しかない。


俺は誰も信じない。
誰にも心の内は明かさない。



それは揺らぐことのない俺の真実なのだから――……



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