家庭*恋*師
「佐久良南?」

どうやら、ルームメイトをつけられたようだ。

確かに特別寮への移動を要請したが、そういえば一人部屋にしておいてくれという条件は出していなかったことに気がつく。

だが、見覚えのない名前だ。前例もあるし、もしかしたら新任の教師を専属の家庭教師として就けられたのかもしれない…そう思うと気が重くなった。

「女みてーな名前。永遠のヒロインかっつの」

まだ顔も知らない相手に、悪態をついてやる。

せめて頭の柔らかい相手なら、出世やらコネやらをチラつかせてどうにかできるかもしれない。そんな案がすぐに浮かぶのは、親の仕事を見ていた影響かもしれない。あまり考えたくはないことだが。

扉を開けると、そこは更に見覚えのないものであふれている。

といっても、前に比べ物が倍増した、というまででもないが、シーツもなかった隣のベッドはきちんと掛け布団が畳んであり、机にはご丁寧に教科書まで置かれている。

だが、肝心の住人は不在。出ているのだろうか。

そんな質問を答えるかのように、聞こえてきたのはシャワーの栓をひねり、水が流れる音。

ほんの今、入れ違うようにシャワーに入ったようだ。

そういえば、脱衣所のドアは新しく備え付けられたものにも関わらず不良品で、鍵がかからないようになっていた。それを思い出すと、また悪知恵が働く。

入浴中に驚かせてやれば、いくら相手が大人でも優位な体制を作れるかもしれない。

悪戯を思いついた子供にも似た表情で、口角を上げた。
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