家庭*恋*師
「あ、なんだ…シャンプーとかまだ箱の中だった」

シャワールームに入り、栓をひねったところでふと気づく。ここまで来たのに戻るのか…
引越中によくやってしまいがちのミスだが、急に入浴すら億劫になってくる。

濡れた長い髪から落ちる雫が床に落ちぬよう手で持ち上に束ね、扉へと歩み寄る。

ガチャ、というドアの開く音が、いやに大きく聞こえたと思ったが、シャワールームに響いたからだろう。

そう思っていた。

「あ」

ほぼ同時に、脱衣所から部屋へと続く鍵のかかったはずのドアが開いた音と重なったからなど、誰が予想できただろう。

「え?」

さきほどまで帰りを待っていた相手が、そこに立っていた。

ああ、背が伸びたんだ。髪も、もっと長くなってるし。でも目はしっかり開いてるじゃん。

そんなことを冷静に考える余地さえあった。

だが、彼の目が見開かれている理由を模索しはじめる思考回路。そしてたどり着いた答えが自分でも信じられないかのように、目線を彼の顔から自分への下ろす。

一気に、血の気がひいた。

シャワールームから出たのだから、タオルなどまとっていない。お湯も出し始めたばかりで、お約束の湯気のカバーもない。腰までの長い髪を下ろしてさえいれば、胸を隠せたであろうが、それも綺麗に頭の上で束ねてある。

忙しい体の血液は、引いたと思えば今度は急激に顔にあつまり、頬が紅潮するのを感じた。

お約束の、全裸でのご対面だった。
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