家庭*恋*師
「…で、ここの平方根を含む式の場合、さっきの公式を使って展開させるの」

新しい家庭教師をつけられて、初めての週末を迎えた。

明後日に控えた実力テストに向け本腰を入れて授業にかかっている南を、皓太朗はどこか他人事のように見つめる。

今日は午前中にも授業があり、せっかくの週末がすっかりつぶされてしまった。

授業をサボろうにも、朝叩き起こされ一緒に登校。下校時間になれば、いつの間にかクラスの前で待ちぶせされ、そのまま共に寮へと戻る。

その度に何かにつけて怒鳴られるので、今ではすっかりクラス中ー否、学校中の余興だ。

人づてで聞いた、浮ついた噂もある。まぁ、同室だということはさすがにトップシークレットだが、南が自分を追いかけてこの学校を受験しただの、初日に自分が彼女をお持ち帰りしてから付き合っているだの…他人の目をそうそう気にしない皓太朗だが、あることないことを言われるといくらか疲れる。

それは、この堅物な少女にない感情なのだろうけど。

「ちょっと出雲、聞いてんの?」
「きーてるって」

いや、もっと正確にいえば、聞いている、というよりも聞こえてしまう、といった方がいいだろう。

怒っている時とは対照的に、耳当たりの良い声。よく理解しているからこそできる、他の問題に例えた応用などの丁寧な説明。中学受験の時に家庭教師のバイトをしていた、と聞いたがそれも頷ける。勉強など毛頭やる気がないが、こう教えられてしまえば自然と頭に入ってしまう。元々、問題は理解力ではなくただの怠慢だったのだから、当たり前といえば当たり前だが。

でもそれも全てまるっきり計算外。テストが近づくにつれ、自分が彼女に完敗なことを決定づけるようで悔しさだけがつのり、うっかりと愚痴までこぼれてしまう。

「あーあ、せっかく可愛い女の子と同室なのに、こんな時間の過ごし方かよ」
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