家庭*恋*師
そして、今に至る。
いつ彼は椅子から立っただろうか、それさえもわからぬまま、感覚のすべてをこの男に奪われたようにさえ感じる。見えるのは大きな胸板だけ、指先は彼の体に食い込み、耳は濡れた舌の音で占められていた。こんなに、ただ一つの存在にすべて支配されるなど、初めての経験だ。
「どーしたの南ちゃん、もうギブアップ?オレのことやる気にしてくれるんじゃなかったんじゃねーの?」
そのわけのわからない問いに答える気力すらも奪われ、焦点の合わない瞳で睨みつけるも、いつもの勢いなどない。それをいいことに、皓太朗はまたおかしそうに笑い、耳元に口を寄せる。
「条件クリアした場合のご褒美、思いついた。もし南ちゃんの言うとーり50位以内に入ったら、南ちゃんのこと好きにさせてもらえる、っつのはどー?そしたらオレ、すっげー頑張るんだけどなー」
「はぁ…?」
「いーアイディアだと思わね?アメとムチ、上手に使い分けるっつの?…まぁ、南ちゃんが嫌っつーなら、強制はしないけど…そしたら、あの他のルールも、無効っつーことで」
その一言で、とろけそうになっていた意識が目を覚ます。
そう、この男の狙いは、それ。ルールの無効、つまり、勉強をしなくても良いような状況を作ること。
相手の動機がわかれば、そこから論理的な見解をすることも、その対応を考えることもできる。危うく乗せられてしまうところだった自分を呪いながら、荒くなった息を整え皓太朗を見据える。
そして、浮かべた笑み。それは、自分が相手の屈さないということを伝える。
「…いーよ」
「……っへ?」
この間の抜けた声が、すべてカマをかけただけだということを物語っている。
それに満足したように口角を上げ、壁に貼り付けてあるルールに、七つめの項目を追加した。
七、実力テストで定められた順位を達成した場合褒美として、テスト発表の夜に皓太朗は南を好きにすることができる
わざとどこか意味深な文面で書かれたそれ。皓太朗が息を呑むのが見て取れた。
「これで、文句ないでしょ?」
いつ彼は椅子から立っただろうか、それさえもわからぬまま、感覚のすべてをこの男に奪われたようにさえ感じる。見えるのは大きな胸板だけ、指先は彼の体に食い込み、耳は濡れた舌の音で占められていた。こんなに、ただ一つの存在にすべて支配されるなど、初めての経験だ。
「どーしたの南ちゃん、もうギブアップ?オレのことやる気にしてくれるんじゃなかったんじゃねーの?」
そのわけのわからない問いに答える気力すらも奪われ、焦点の合わない瞳で睨みつけるも、いつもの勢いなどない。それをいいことに、皓太朗はまたおかしそうに笑い、耳元に口を寄せる。
「条件クリアした場合のご褒美、思いついた。もし南ちゃんの言うとーり50位以内に入ったら、南ちゃんのこと好きにさせてもらえる、っつのはどー?そしたらオレ、すっげー頑張るんだけどなー」
「はぁ…?」
「いーアイディアだと思わね?アメとムチ、上手に使い分けるっつの?…まぁ、南ちゃんが嫌っつーなら、強制はしないけど…そしたら、あの他のルールも、無効っつーことで」
その一言で、とろけそうになっていた意識が目を覚ます。
そう、この男の狙いは、それ。ルールの無効、つまり、勉強をしなくても良いような状況を作ること。
相手の動機がわかれば、そこから論理的な見解をすることも、その対応を考えることもできる。危うく乗せられてしまうところだった自分を呪いながら、荒くなった息を整え皓太朗を見据える。
そして、浮かべた笑み。それは、自分が相手の屈さないということを伝える。
「…いーよ」
「……っへ?」
この間の抜けた声が、すべてカマをかけただけだということを物語っている。
それに満足したように口角を上げ、壁に貼り付けてあるルールに、七つめの項目を追加した。
七、実力テストで定められた順位を達成した場合褒美として、テスト発表の夜に皓太朗は南を好きにすることができる
わざとどこか意味深な文面で書かれたそれ。皓太朗が息を呑むのが見て取れた。
「これで、文句ないでしょ?」