家庭*恋*師
通常授業がこんなに短いと感じたのは、皓太朗にとって人生で初めての経験だった。

今までの彼にとって、真面目に勉強をしていた以前でも、学校での授業は息苦しく退屈なもの。父親の期待に応えるというプレッシャーを感じたりするにはあまりにも長い時間で、早く進めばいいのに、早く終わって逃げ出せればいいのに、そんなことばかり考えていた。

だが今日は違う。自分の気持ちを整理するのにもっと時間が欲しいと思った。

今朝の南とのやり取りを思い出しては、頭を抱えたくなる。逃げ出したい、その思いはまだ成長していないのか、と苦笑する。どうしてあんなことを言ってしまったんだろう。なのに、どうしてか、手が期待で震える。

彼女のあの厳しい表情を自分がだらしなく緩ませることを。透き通るような凛とした声が自分の行動によって熱を持つことを。自分のすべてが、それを切望しているのを感じていた。

そんなことを考えていれば、一日はあっという間に過ぎ、下校を知らせるチャイムが鳴る。短い期間ですっかり日常となったお迎えは、今朝のようなイレギュラーな出来事のあとでも律儀に遂行されていて、南の姿がドアの前にあった。お堅い表情も、胸の前で組まれた腕もいつもと変わりなく、もしかしたら自分はあんなことを口走ってなどいないのではないか、と自分を騙すことができるほど。

そして、そんなバカげた考えは、彼女の姿を見て安心した自分の気持ちを誤摩化すにはちょうどよかった。
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