小さな主人と二人の従者
「怖かったら泣いたらいいじゃない?どうして我慢するの?」
「・・・・・・ない」
「ん?」

 声があまりにも小さかったので、聞き取ることができなかった。

「我慢・・・・・・していない・・・・・・」
「どこが」

 涙が今にも零れ落ちそうになりながら、口元を力強く結んでいるのだから嘘を言っていることは一目瞭然だった。

「素直になることがそんなに嫌?」
「笑うでしょ?」

 否定はできなかった。
 それは決して嘲笑ではなく、可愛らしくて笑ってしまうだけのこと。

「そんな顔をして誘っているの?」
「違うよ」

 否定しているが、逆の意味だと都合の良いことをギャレットは思っていた。

「ジュリア嬢、こっちを向いて、目を開けて」

 それに従わないジュリアを何とか自分だけを映し出してほしかった。

「ジュリア」

 初めて呼び捨てにされて、ギャレットの願い通りにジュリアは目を開けた。

「今は何が見える?」

 両頬を手で挟まれて顔を覗き込まれてしまえば、目の前にいる名前を言うだけだった。

「ギャレットだよ」
「何が聞こえる?」

 聞こえるのは雨音と雷の音とギャレットの声。

「俺の声だけを聞いていて」
「無茶を言わないで」
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