ツラの皮
噛み締めた唇が朱を増し、白い肌に一層際立つ。
臥せられた睫は木枯らしに揺れる木の葉のように心許なく震えた。
その痛ましげな立ち姿を見ても胸は痛まず、寧ろ時間の方が気になった。
早急にお帰り願いたい。
というか、俺が早く帰りたいんだよ。
「まぁ、これから宜しく。現場がギクシャクすんのもなんだし、楽しくやってこーや。」
雪乃は言葉を捜しあぐねる時間を経て、諦めたように小さく頷いた。
「…………うん。宜しくね。」
その後、傍観を決め込んでいた麻生ととってつけたようにお仕着せの挨拶を交わし、最後は勤めて明るく部屋から出て行った。
扉を閉める直前に、何か言いたげな視線を残して。
思わず駆け出し引き止めたくなるような儚い表情。
だが、当然、俺はそんなことしないし、する気もサラサラない。