ツラの皮
理由はどうであれ逃げられてしまったものは仕方がない。
また仕切りなおすか、とその点は割り切ったが。
連絡がない。
メールを入れてみても一向にレスは来ないし、待つのに堪えかね電話を掛けてみたが出ない。
着信拒否という明確な拒否ではないが、意識した無視だろ。
って、まさか帰り際にヘンな野郎に拉致られてどこぞへ監禁されてたりはしないよな?
不安と苛立ちの綯交ぜになった気持ちを抱えたまま丸一日待って、月曜日の今日、会社に連絡を入れてみた。
連絡先の交換に貰った名刺が会社のものだったからだ。
すると一応、会社には出勤しているという話だったが、生憎席を外していて代わってもらうことは出来なかった。
「……で、今から帰宅時を襲撃しようって魂胆なんだ……。」
「ワルイかよ。」
「高遠がストーカーになりつつある。」
「ッルセ、ほっとけ。」
あんにゃろう。
人をここまで振り回しやがって、逃げられると思うなよ。
「ホント人間って変われば変わるもんだねぇ~」
と爺むさく呟く麻生を残し、俺は鈴捕獲に備え早々と会社を飛び出した。