ツラの皮
だがほっとしたのも束の間で、爆睡女は豪快に舟を漕ぎ出した。
屋形船っつーより、海賊船の勢いだ。
女が転がり落ちそうになる度に俺は息を飲み、持ち直して吐き出すという行為を繰り返した。
同様にアチコチから溜息だか吐息だかが小さく吐き出される気配がした。
……俺は今、
見ず知らずの他人と朝から緊張の一体感を体感している。
見ず知らずの女のお陰で。
改めてそう思ったら、あまりにも馬鹿馬鹿しく、滑稽な事態に噴出しそうになった。
麻生が居たら絶対笑い転げているはずだ。
苦心して笑いを堪えていると、不意に小さな衝撃が肩に加わった。
見れば、女が俺の肩を枕代わりにしようと寝心地を確かめるように頭を擦り付けていた。
なんて図々しい女だ。
しかし、言うほど怒りや苛立ちは沸いてこなかった。
寧ろ、理不尽な緊張を強いられずに済んだほうに安堵した。
周囲もようやく落ち着いたような面持ちで微笑ましげに視線を外してゆく。