ツラの皮
俺に対して面白そうに眉を上げた母親は次に縮こまっている鈴を眺め「体調がねぇ」と含みのある笑みを浮かべた。
徐に俺に顔を戻しニコリと微笑む。
「こんなところでは何ですし、中に入ってゆっくりしていらしたら?何なら今夜は泊まっていきます?」
「お母さんっ!」
鈴の絶叫の後に俺は丁重に辞退した。
「今夜は鈴さんも本調子ではありませんし、ゆっくり休養させて下さい。また日を改めてご挨拶に伺わせていただきます。」
頭ごなしに拒否されなかったのは幸いだが、何のつもりか図りかねるのでここは慎重にいくのがベストだろう。
それに・・・
さすがに親の監視下で病気娘に手を出すほど俺も豪胆ではない。
「そう。残念だけど仕方がないわね。また日を改めて。」
そこで言葉を切った母親は、それまで上司然としていた笑みを綻ばせた。
「この子もその父親も手が掛かるけど、どうか宜しくお願いしますね、高遠さん。」