ツラの皮
かくいう俺も材料のチェックに念を入れていると
「タカトー!宿題教えてん!」
「げっ!」
素っ頓狂な叫び声と共に背中に衝撃が加えられ、危うく取り落としそうになったパレットを掴みなおし、衝撃源を睨み付ける。
「オマエは~。他の奴と一緒にさっさと食事を取って来い!」
俺の背中に巨大カブトムシみたいにへばりついているのは、子猫みたいな面差しで天才子役と名高い深澤ミレイ、小学三年のちびっ子だ。
台詞を覚える能力は大人顔負けで、何よりこの業界に長く居る所為か妙にマセている。
「いいの。午後の本番は遅いからぁ、一緒にご飯食べましょ。」
「ヤダね。俺は保育士じゃねぇって。構ってほしけりゃ麻生にしろ。」
「んもー。タカトーのテレ屋さん。だけどそんな冷たいところもダ・イ・ス・キ。」
「あーもーウルセェ!」
俺たちのやり取りに周囲のスタッフがクスクスと笑う。
何故だか俺はこのちびっ子に気に入られ、顔見せからこの調子で取り付かれている。